何のために蓄財するのか?

貯金の目的は精神安定剤

『1億円の貯め方』という新刊を読んでいる。冒頭で貯金の目的は精神安定剤*1と言い切ってて「なるほど、そういう考え方もあるのか」と思った。ブラック企業で働いている著者の労働に対する忌避感が強く出ている言葉と感じたが、サラリーマンという立場から共感する人も多いのではないだろうか。

海外のマネー系の記事を読んでいると、Emergency Fund とか Fuck you fund という言葉が時々出てくるが考え方は同じと感じた。要点として、

  • 会社で働かないと生きていけないという、働く以外の生き方の選択肢がない状態が苦痛だ。生計を人質に働くことを強要されているような気分になる。
  • 貯金があることで「いざとなればいつでも仕事を辞めて、半年ほどゆっくりする」という選択肢が得られる。それは、(経済的ではなく)精神的な充足につながる。

ということなのかな、と。ここでは、お金があることによる経済的なベネフィット(沢山のお金が使えて幸せ)というよりは、心理的なベネフィットが話の主題になっている。

if you have had enough of your boss constantly criticizing you and your work and today is the day you tell your boss to stick his job. However, by NOT having an Emergency Fund, once again you have to be your boss’ bitch and endure another soul destroying day.(brutal but true)

(訳) 上司からの絶え間ない批判に嫌気が差し、今日こそ上司に仕事を投げ出すと言おうと思っているとします。しかし、エマージェンシー・ファンドを持っていないと、再び上司の奴隷にならざるを得ず、魂を破壊するようなもう一日を耐え忍ばなければなりません(残酷ですが真実です)。

選択肢のある状態が産む精神的なベネフィット

先日読んだ書籍『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』の中で、人はなぜ選択肢のある状態を好むのかが説明されていて興味深かった。*2

人間には自分のいる環境をコントロールすることで、快を増やし不快を減らしたいという欲求があり、そのために、自分に影響する物事への選択権を奪われるのを強く嫌うのだそうだ。つまり、「自分には環境をコントロールする力がある」という気分を得るために選択肢/選択権を欲する欲求がある、と。

この視点に立つと前述の貯金は精神安定剤Emergency Fundという考え方はすごくよくわかる。

マネープランを考える時は経済的な利益と心理的な利益のバランスが大事

同じく書籍『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』の中で、資産運用にお金を回さずにタンス預金をする人が沢山いるのはなぜかという話がある。*3

要するに、他者に自分のお金を預けることで自分のお金に対するコントロール感が失われるのが不快と言うことなんだそうだ。これはすごくよくわかる。ファンドにお金を預ける時に「ファンドマネージャーが夜逃げしたら俺のお金はどうなるんだろう。不安だ」みたいなことを思うことは時々ある。自分のお金に対するコントロール感が自分の手を離れるのはとても不安だし、危険な感じがして落ち着かない。

この話の示唆は何かと考えたが、ポイントとしてマネープランを考える時に経済的な利益だけでなく、心理的な利益をちゃんと考えて設計しようと言うことなんだと思う。人間の成り立ちとして、毎日の快が多く不快がある程度少なければ幸せという話があり、そのためにお金というツールをどう活用するのか?となる。

その際に、資産総額は増えているけど心理的な不快は減っていないという状態はイマイチに思う。だから、資産の増加効率と心理的な不快感の回避をどう両立するのか?が検討観点として重要だ。*4後者の観点は今まで弱かったのでその観点でもちっとマネープランを見直してみようと思った。

*1:『1億円の貯め方』P4

*2:『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』P104

*3:『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』P114

*4:両者はトレードオフになりやすい。例えば、ファンドにお金を預けると資金の増加効率は上がるが、心理的な不安感も同時に増える。